アーティストインタビュー: 木村華子がカメラに収める、”意味があって、意味のないもの”

2019年11月1日に正式オープンをしたKAGANHOTEL。今回は、コマーシャルフォトグラファー・アーティストとしてKAGANHOTELに入居する木村華子さんに、作品への思いや、入居にあたっての意気込みについて、話を聞きました。

 


 

– 現在、コマーシャルフォトグラファーとアーティストというふたつの活動をされていますが、そもそものきっかけはなんだったのでしょうか?

母がアート好きで、その影響で子供の頃から美術館に行くことが好きでした。絵を書くのも好きだったんですが、美大に行くほどではないと思っていて。中学〜高校時代は吹奏楽部、大学時代は軽音楽部に所属し、アートというよりはむしろ、音楽に熱中していました。

転機があったのは、大学2年生の時です。今まで部活で音楽に力を注いできたんですが、なんだか燃え尽きてしまったタイミングがあって。違うことをしよう、と急に思い立ちました。

大学時代は美学芸術学科というコースで勉強していて、アートに関わってはいたのですが、つくる側というよりは教室でのアート批評が中心でした。卒業後は学芸員や、芸術系の編集者になる人もいる学科です。就職活動をして一般企業に入るのは自分には向いていない、と早々に気づいて、「コマーシャルフォトグラファーになろう」と急に思いつきました。それまで写真を撮っていたわけでも、専門で勉強していたわけでもなかったんですけどね。

木村華子「はじまりの終わりは、おわりの始まり。」

– 面白いですね。そこからどのように写真を学んだのでしょう?

大学に在学中、週に1回の授業で7ヶ月間で卒業する専門学校にダブルスクールし、写真の基礎を学びました。写真を撮れるようになったら、作品を作れるようになったんです。

写真スタジオで1年半ほど働き、ブライダルやポートレートの撮影をしました。好きな雑誌に電話で連絡して、売り込みをしたこともあります。知人の紹介などで雑誌の仕事も入ってくるようになりました。ここでの仕事を通して、スナップ写真も撮れるようになりました。

20代前半の頃、展示型コンペの御苗場に出展しました。ここで賞を頂くことができて、作品づくりに拍車がかかりました。

– どのような作品をつくっているのですか?普段から意識しているテーマや被写体などがあるのでしょうか。

1作目は正方形の画面に、2つの写真をコラージュをした作品を制作しました。現在3作目まで発表しているのですが、その都度制作のスタイルは変わります。仕事として写真を撮るときはポートレイトも多いですが、作品を作るときは特定の個人が分からないようなものであったり、ふと目に留まった風景などであることが多いです。

1作目の「はじまりの終わりは、おわりの始まり。」という作品は、街を歩きながら撮影した写真のコラージュです。私の作品の一貫したテーマは「意味がある/ない」「存在している/していない」「違う/同じ」といったような、一見すると両極端な事象の間にある広大なグレーゾーンに触れるということです。また制作を通して相反すると思われている事象が、ひとつのものの中に同時に、そして完璧に成立しているということを実感したいと考えています。

木村華子「発光幻肢」

良いか悪いか、存在するか存在しないか、意味があるか意味がないか。普段の日常における我々は、ある両極端の事象をはっきり分けて生活しています。でも私は「真っ白か真っ黒かのどちらかしなかない」ということは滅多にないのではないかと思っていて。黒と白の間に無限の階調のグレーがあるように、両極端に見えるものの間には、それらが共存している状態が幾重にもあります。一見両極端に見えるものの重なりを、作品で表現したいと思っています。

木村華子「SIGNS FOR [ ]」

「何も描かれていない空(カラ)の看板と雲ひとつない青空」を写真に収めた、第3作目のアート作品となる『SIGNS FOR [ ]』。アクリル板に写真をUVプリントで直接印刷し、その上にネオンライトを設置した、光る作品となっている。KAGANHOTEL5Fの宿泊客に限り、現在施設内でのレンタル鑑賞が可能だ。

 

1作目の作品を作ってから一見すると両極端な事象が、同時に同じ対象の上に成立する装置を作りたいということに気づきました。

3作目の”SIGNS FOR [ ]”でも同様のことを意識して制作していますが、最近はより自分を取り巻く社会のことなどの外的な要素を意識するようになりました。以前よりも日本やアジアの社会現象や文化、経済に目を向けていると思います。
また表現方法としては写真だけに留まらず、3作目のネオンのように多様な素材やインスタレーションを用いて、幅広く作品を展開していきたいと考えています。

– KAGANHOTELに入居を決めるに至ったきっかけを教えて頂けますか?

KAGANHOTEL共同代表の日下部さんと、学生時代に偶然知り合ったんです。それ以来仲良くなって、KAGANHOTELのクラウドファンディングに私が申し込んだことを契機に、写真を撮らせて頂くなど一緒に活動させて頂くようになりました。

他の入居アーティストとも交流しながら、次の作品の準備を進めていきたいと思います。


(文:Mariko Sugita 作品写真:Hanako Kimura)


木村華子(きむら はなこ)

京都府出身、大阪市在住。同志社大学文学部美学芸術学科卒業。現在フリーランスのフォトグラファーとして雑誌や広告、ポートレート撮影などを中心に幅広いジャンルで多岐にわたり活動中。自身のライフワークとして制作活動も行っており、主に「存在する」と「存在していない」などの両極端と捉えられている事象の間に横たわるグレーゾーンに触れることをテーマに、定期的に現代美術作品を発表する。また近年は写真に留まらず立体作品、コラージュ、インスタレーションなども手がけている。2018年「UNKNOWN ASIA 2018」グランプリ受賞。

3作目”SIGNS FOR [ ]”の解説はこちら

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