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アーティストインタビュー: Keith Spencerの描く、”戻りたいけど戻れない場所”の風景

2019年秋の正式オープンを直近に、徐々に活動を開始したKAGANHOTEL。今回は、アメリカ・ニューメキシコから日本に移住をし、KAGANHOTELに入居を決めたKeith Spencerさんに、作品への思いや、入居にあたっての意気込みについて、話を聞きました。

 


 

– 2019年9月に京都に移住され、KAGANHOTELに入居されましたが、そもそもアートを始めたきっかけをお聞かせ頂けますか?

大学で、アートとクリエイティブ・ライティングを勉強しました。実はずっと、アーティストというよりも作家になりたかったんです。

大学を卒業後、仕事の関係で福島に何年か住む機会がありました。当時から短編を書いていたのですが、英語だったので、読んでくれる人が周りにあまりいなくて。コミュニケーションの壁を痛感しました。文章よりも、絵を描く美術であれば、言葉を介することなく人々と分かり合えるのでは、と思いました。そこから、風景画を描き始めることになりました。2007年のことです。

– どんな風景を描かれているのですか?

福島から大学進学の関係でロンドン、そしてシカゴへと引越しましたが、あまりしっくりこず、東日本大震災直後の日本に戻ることにしました。今回は福島ではなく、京都の日本語センターに所属することになりました。

1年後、懐かしの福島の地に足を運びました。かつて知っていたはずの福島の変わり果てた姿に、愕然としたのを覚えています。物理的な変化だけでなく、目に見えない変化もあって。このときから、自分にとっての大切な場所が、どう変化していくのか、考え始めるようになりました。私の作品では、「以前、その場所にいた時」の風景を再現して、自分の想像と、現実との差を描写しよう、という意図があります。

Saturn Never Sleeps v.2 – ink, acrylic, and pigment on canvas – 213x203cm – 2019

 

construction site – ink and gouache on paper – 23x19cm – 2019

 

出身地であるアメリカ・ニューメキシコ州が私の描く風景画の中心を占めますが、福島は自分にとって、第2の故郷です。ここでの経験は、自分の作品に大きな影響を与えています。

今年の5月までカナダ・バンクーバーの美術大学院に在籍しており、原子力の歴史を研究していました。ニューメキシコでも、1945年に人類最初の核実験が行われた、という過去があります。この研究が、福島とニューメキシコを繋いでくれました。今後、その研究内容を作品にもうまくつなげたいなと思っています。

– どのようにスタイルを確立したのでしょう?

以前から風景画に興味ありましたが、このスタイルにたどり着いたのついたのは、実は最近のことです。

モノタイプは版画の簡単な手法です。版に直接インクや油絵具などの画材で描画し、その上に紙をのせて圧力をかけ、転写させます。紙に転写されたそれは、私が直接書いたものではなく、いわば”手に届かない”ものです。モノタイプという手法を用い、”手に届かない空間、記憶にある景色、戻りたいけど戻れない場所”を表現しようとしています。
また、最近気付いたことですが、私の色使いは、故郷であるニューメキシコの色です。山の色や夕日、砂漠の色など、故郷の風景のなかにある色合いを、無意識に自分の作品にも使っていました。

Seasons change – ink, acrylic, and oil on canvas over panel – 46x36cm – 2018

 

– KAGANHOTELに入居を決めるに至ったきっかけを教えて頂けますか?

今年の5月までカナダ・バンクーバーの美術大学院に在籍しており、卒業後はアーティスト・イン・レジデンスを希望していました。普通の企業に就職してしまえば、自分の作品制作にきちんと時間が割けません。生活費の捻出と、作品制作の両立ができる場所を探していて、アーティスト支援がしっかりしており、アーティストへの雇用機会も提供しているKAGANHOTELに辿り着きました。

私は社会人としての経験もあるので、自身のキャリアとアート活動を両立できるのが、ぴったりだと思っています。

– 今後、日本、そしてKAGANHOTELで挑戦してみたいことは何ですか?

滞在中は、時間をかけて色んなことに挑戦したいです。他のアーティストとコラボレーションをしたり、京都市民とも密に交流していきたいですね。

ずっとスタジオ内に留まるだけでなく、ワークショップやスタジオ訪問などを通して、さまざまな人と交流できるのが楽しみです。

風景画だけでなく、クリエイティブ・ライティングにも取り組み、短編小説を書いてみたいと思っています。私の物語のなかでは、主人公はいつも、人ではありません。むしろ、まちや建物などの場所が、私にとって大切です。なので、場を取り巻く感情や物語を、書いていきたいですね。

– 風景画だけでなく、小説を拝読できるのを、とても楽しみにしています!


(文・写真 Mariko Sugita 作品写真:Keith Spencer)


 

Keith Spencer(キース・スペンサー)

1982年、アメリカ・ニューメキシコ州生まれ。2009年に福島県の親善大使に任命され、アーティスト・ライター・教師として北米と日本で活躍。2016年にシカゴ美術館付属美術大学の学士後絵画学部を修了。2017年にはカナダ・バンクーバー市に引っ越し、エミリーカー美術大学の修士課程を修了。2016年、日米シカゴ協会奨学金を受賞。また、2019年にエミリーカー美術大学の契約教師として採用され、2020年には理科とアートの研究プロジェクト『Leaning Out of Windows』の参加者として、バンクーバーでグループ展示会に作品を出品する予定。現在、京都・河岸ホテルにてアーティスト・イン・レジデンスを行う。

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